介護者の心得

生きていく上での基本的な欲求を満たす
認知症のお年寄りは、習慣として行ってきた日常生活が次第にできなくなってきます。一見できているようでも、不完全なことが多くなります。食事、排池、清潔などすべてがお年寄りに適した方法で、常に満たされるようにしていくことです。


◎予測できる危険から守る
認知症のお年寄りが生活していくには、現代はあまりにも危険が多過ぎます。お年寄りが保護的な環境の中で安全に生活ができるように配慮します。また、予測できる事故から守るための対策をたてて実行することが大切です。


◎孤独にさせない
認知症のお年寄りを長いこと-人きりにさせておくことは好ましくありません。孤独にしておくと、問題行動を起こし事故につながることがあります。また、刺激のない生活は認知症の進行を早めるといわれています。家族が一緒にいて刺激を与えられない場合は、日中だけお世話をするデイサーピスなどに参加してグループ活動をすることをおすすめします。日常生活の中で、お年寄りに疎外感を与えないような配慮が必要です。


自尊心を傷つけない
感情が保たれています。お年寄りの行動を馬鹿にしたり噸笑したりすることは避けて、好ましい感情の交流をはかるようにします。子供扱いは好ましくありません。年長者として対応しましょう。


◎役割を与える
認知症のお年寄りはなにもできない」と決めつけないことです。習慣として行っていたことの中には、できることもあります。完全にできないときはそっと補って、お年寄りがご自分で行ったようにします。わずかなこと、生産的でないことでも役割があることは、たとえその場限りでも、「私は役にたっている」と感じ、自尊心を高めることにつながります。

 

◎寝たきりにさせない
お年寄りが寝たきりになると、認知症状態の悪化につながります。また、手足の関節の拘縮や床擦れ、肺炎などを引き起こしやす/、なります。
お年寄りが寝たきりになるきっかけとしては、骨折や脳卒中、風邪やその他の身体疾患があげられます。また、認知症状態のために意欲が低下して、介護者が起こさなければ終日床についているお年寄りもいます。お年寄りを寝たきりにさせないためには、寝たきりになる原因をつくらないことが、第一です。
骨折や身体疾患などは避けがたいものですが、そのような状況に出合った場合は、医師の指示を受けて早期離床やリハビリテーションを行います。以前のように自由に歩行できなくなったときは、寝たきりにさせないで、日中は寝具を片付けて、「いざり移動」とします。
環境が許せば、車椅子の生活も。

 

◎お年寄りに合わせる
認知症の程度は、その日によって、また時間によって変わります。したがって、認知症のお年寄りはいつも何も理解できない、という思い込みは危険です。また、認知症のお年寄りは話や行動の中で、昔のことと現在のこととを混同することがあります。
認知症のお年寄りの介護は、そのときどきの変化に応じて、柔軟で臨機応変な対応が必要です。認知症のお年寄りと一口にいっても、認知症の程度、合併する身体疾患や障害の有無、生活歴、習慣や癖、性格などで介護の方法は異なります。一人ひとりのお年寄りに合わせて介護するようにしましょう。

行動上の問題

認知症高齢者にみられる行動上の問題は、認知症という精神障害の結果として現れるので、行動だけをとり上げて考えるのではなく、認知症高齢者の全人格を理解して、その異常行動を考える必要があります。行動により生ずる問題は、認知症高齢者の性格と切り離せない関係にあります。
また、同じ行動障害があっても、それをとり巻く環境によってそれが周囲に与える影響、そして、周囲から患者が受ける影響にはさまざまな違いがあります。些細な患者の不適応ですら受け入れることのできない厳しい環境もあれば、はなはだしい逸脱行動があっても、それを許容しうる環境もあります。
さらに、似たような異常行動がみられても、その背景がいつも同じであるとはかぎりません。たとえば、俳個が脳障害による興奮の結果であったり、痛みなどの肉体的苦痛の表現であったり、あるいは不安の表現である場合もあります。また、不満や怒りの表現である場合もあります。
認知症高齢者の異常行動の中には、対処のむずかしい例が少なくないことは確かですが、その背景や原因を見極めて対処の仕方を工夫すれば、行動障害を改善することも決してまれではありません。
認知症高齢者によくみられる異常行動を分類すると次のようになります。

認知症そのものによるもの
自分の持ち物と他人のものの区別がつかない。物をなくしたり、しまい忘れて「無い」と騒ぐ。家庭器具・器械類の危険な使い方、空焚き、火の不始末、手洗いを汚す、不潔になる、迷子になる、規則が守れない、部屋を間違える。

意識障害によるもの
まとまりのない言動、俳個、不眠、幻覚、興奮、大声を上げるなどです。

◎妄想、幻覚の影響によるもの
妄想にもとづく敵意、攻撃、興奮、おびえ。警察へ訴えたり、保護を求めたりします。

◎情動障害、人格障害などによるもの
攻撃的乱暴行為、ひねくれ行為、いやがらせ、反発、拒絶的、弄便、食糞などの不潔行為、自殺企図、自傷行為、うそをつく、心気的、好訴的で同じ話を何回も繰り返す、拒食、過食、異食、性的異常行為(露出、性器いじり、卑狼な言動)、衣類を脱いで裸になってしまう、やたらに物を集めてくる、衣類やふとんなどを裂いてしまう、物をこわす、燃やす、盗む、他人の寝室に入ってくる、覗く、などが観察されます。

以上のようにみてくると、認知症の異常行動が単に認知症によるだけでなく、背景が多彩であ
ることが理解できると思います。ときによっては、認知症よりも精神症状が前面に出てくるこ
とがあります。認知症見当識の障害は、認知症の徴候と考えてさしつかえありませんが、妄想
や幻覚、抑うつ気分、いらいら、不安、興味の喪失、意欲の低下、食欲低下、無口などは普通、分裂病、操うつ病神経症などの症状と考えます。認知症の程度が軽くて、こういう精神症状が前面に出ている場合には、それによって記憶障害などの認知症症状が覆われ、認知症が見逃されることがあります。
老年認知症や初老期認知症の場合には、認知症よりもこういう精神症状ではじまることがあります。経過をしっかりみることと、精神症状が認知症を覆っていないかどうか注意することが必
要です.