拒否

◎拒 薬
病気に対する自覚がありませんから、なぜ薬を飲むのか理解できません。また薬であることがわからなくなると、口の中に入れられたものは、異物として感じるのでしょうか、吐き出してしまいます。
 
薬は飲む時間が指定されています。しかし薬を吐き出してしまうお年寄りで、食後三○分に服用させるものであれば、食事のおわりころに、お年璽寄りの好きなかぼちゃ、いも類、ヨーグルト、アイスクリームなどに薬をまぜて、口のなかに入れます。間をおかずにもう一口かぼちゃやヨーグルトなどを与えます。薬を飲まないからといって、食事全体にまぶしたりすると、食事も拒否するようになりますので、注意しましょう。


◎入浴拒否
認知症性高齢者のなかには、入浴を嫌う方もいます。嫌うにはそれなりの理由があると思います。介護者側の「なにがなんでも入浴させたい」という思いが、お年寄りの気持ちを無視していることもあります。家族が多いために、夜は混雑するので、お年寄りに日中入浴をすすめたところ、「お天とうさまがこんなに高いのに、風呂なんか入れるか」と嫁を叱ったそうです。また木製の風呂が古くなったので、ステンレスの風呂に替えたところ、他人の家の風呂と思い、「風呂は家へ帰ってから入る」といって、家族を困らせた方もいます。
 
用心深い方は、風呂に入っている間に、脱いだ衣類を盗られてしまうのではないかと不安になって、入浴を嫌う場合があります。また、入浴中に怖い思いをしたことから、入浴を嫌うようになったお年寄りもいます。認知症状態が高度になると、風呂に入りなさいといわれても、何のことか意味が理解できないし、どう行動すればよいのかわからなくなります。
 
入浴を嫌うお年寄りに対しては、嫌う理由を知って、お年寄りに合わせた入浴の誘導をします。日中の入浴には、「温泉に入りましょう」と誘います。温泉なら時間に関係なく入るところなので、すんなりと入ってくれます。入浴をすすめる人が変わると、入ることもあります。
 
どうしても入浴を嫌う場合は、特別養護老人ホーム認知症性高齢者デイホームなどの入浴サービスを受けることをおすすめします。

 

 


認知症性高齢者が、食べられないものを口に入れたときは、「ああしなさい、こうしなさい」
というとかえって混乱します。なかには取られると思って飲み込んでしまう人もいます。歯のない人ならKさんのような方法がよいでしょう。歯のあるお年寄りの場合も、介護者は落ち着いて、好物を見せて取り替えてもらいます。おまんじゅうやみかん、せんべいなどお年寄りの見覚えのあるものがよいでしょう。かなり認知症状態のすすんでいるお年寄りも、美味
しいものと美味しくないものはわかるようです。
 

認知症性高齢者に、飲み込んでしまったものを吐き出しなさいといっても、吐き出す方法がわかりません。飲み込んだものによっては、緊急処置が必要です。たとえば、経口糖尿病治療薬を、決められた量以上に飲んでしまったときなどは、主治医に連絡を取りましょう。夜間や休日などのときのことも考えておく必要があります。

 

自尊心を傷つけないように

認知症のお年寄りの介護をすすめるうえで、最も基本となるのが、「接し方」です。接し方によっては、お年寄りの自尊心をひどく傷つけたり、不安や混乱を強めてしまいます。その結果、認知症状態の悪化に拍車をかけることになります。好ましい接し方は、老人の気持ちを安定させ、不安や混乱の軽減につながります。

 


認知症のお年寄りと接していくには、まずそのお年寄りの特徴を知ることです。記憶障害や見当識障害、判断や推理力の低下、常識の低下などにくわえて、適切に意思表示ができず、話の内容も完全に了解できないために、お互いの意思を伝え、理解させることがきわめてむずかしくなります。

 


 感情面は認知症状態が高度になっても保たれています。認知症が軽度や中等度のころは、むしろ敏感になっているために、周囲の人の好ましくない接し方はお年寄りの気持ちをひどく傷つけることになります。
 お年寄りは、長いあいだそれぞれの生き方をしてきました。したがって、一人ひとりのお年寄りに合わせた接し方が必要です。そのためには、認知症の原因疾患や身体合併症、コミュニケーション障害、個人の性格、生活歴、習慣などの情報を得ておく必要があります。またお年寄りの生きてきた文化的背景を知っておくことは、認知症のお年寄りと接していくうえで、とても役に立ちます。



認知症のお年寄りは、理解できない行動をとることがしばしばあります。お年寄りの間違った行動に対し、叱ったり、訂正したり、説得や強制的な指導をすることは無意味です。お年寄りは叱られた原因は忘れてしまいますが、叱られたときの屈辱感は残ります。同じようなことが度重なると、お年寄りをうつ状態にしたり、ときには攻撃的にさせたりします。