第1期

アルツハイマー認知症が初老期に発症した場合をいい、老年期よりは典型的な経過を示しますので、参考のために説明します。アルツハイマー病では、その臨床症状の出現と経過はほぼ一定のかたちをとります。一般的には、アルツハイマー病の臨床経過は三期に分類されています。


第1期
初期に初発症状として、頭痛、昏蒙、めまい感、うっ気分、不安感、発動性減退あるいは焦燥感などを伴う気分変調などがみられることがあり、この非特異的症状を呈する時期を初期症候群とよびます。
とくにうつ状態は、アルツハイマー認知症に合併する率が高いとされています。一八の研究報告をまとめると、その頻度は平均四一パーセントであり、多くは四○’五○パーセントの間にあります。このうち大うつ病、双極感情障害、気分変調障害に当てはまるのは一○’二○パーセントとなります。
ラザルスらは、アルツハイマー認知症うつ状態の特徴としては、身体症状よりも抑うつや絶望などの内的な気分障害を示す傾向が強いと報告しました。ただし、認知症であってもうつ病であっても、共通する症状は仕事、活動性の減退や身体症状であるために、うつ状態の過大評価につながりやすいので注意する必要があります。ラザルスらの報告については、わが国ではまだ完全には意見の一致をみていません。

宮崎医科大学の三山吉夫教授は、むしろみせかけのうつ病様状態と表現し、うつ病と異なる点として、悲哀感の乏しさ、深刻感の欠如、無関心、否定、放置すれば何もしない、症状の動揺がないなどの特徴をあげています。
アルツハイマー病のI期は徐々に進行してくることが多く、それと気づいて医師を訪れるまでに一’二年を要することがよくあります。振り返ってみると、心当たりになる症状がみえかくれしている時期が家族によって指摘されるものです。根気がない、疲れやすい、自宅で何もしないでぼんやりしている、不眠、うっ気分、頭痛、肩こり、めまいなどの心気的、神経衰弱様の所見があり、物忘れがこれらの症状の上に重なってきます。
記銘力低下にもとづく行動としては、洗濯物を干したかどうか忘れての再三の確認や、財布、貯金通帳、印鑑のしまい忘れ、置き忘れがみられ、よく探し回ります。また電話番号を覚えられず、何回も確認する行動などが観察されることによっても発見されます。これらをコルサコフ型(ロシアの精神病理学者、一八五四’一九○○)の記憶障害といいます。コル
サコフ型は健忘症候群ともいわれ、記銘、近時記憶、学習などが侵されるものです。