行動上の問題

認知症高齢者にみられる行動上の問題は、認知症という精神障害の結果として現れるので、行動だけをとり上げて考えるのではなく、認知症高齢者の全人格を理解して、その異常行動を考える必要があります。行動により生ずる問題は、認知症高齢者の性格と切り離せない関係にあります。
また、同じ行動障害があっても、それをとり巻く環境によってそれが周囲に与える影響、そして、周囲から患者が受ける影響にはさまざまな違いがあります。些細な患者の不適応ですら受け入れることのできない厳しい環境もあれば、はなはだしい逸脱行動があっても、それを許容しうる環境もあります。
さらに、似たような異常行動がみられても、その背景がいつも同じであるとはかぎりません。たとえば、俳個が脳障害による興奮の結果であったり、痛みなどの肉体的苦痛の表現であったり、あるいは不安の表現である場合もあります。また、不満や怒りの表現である場合もあります。
認知症高齢者の異常行動の中には、対処のむずかしい例が少なくないことは確かですが、その背景や原因を見極めて対処の仕方を工夫すれば、行動障害を改善することも決してまれではありません。
認知症高齢者によくみられる異常行動を分類すると次のようになります。

認知症そのものによるもの
自分の持ち物と他人のものの区別がつかない。物をなくしたり、しまい忘れて「無い」と騒ぐ。家庭器具・器械類の危険な使い方、空焚き、火の不始末、手洗いを汚す、不潔になる、迷子になる、規則が守れない、部屋を間違える。

意識障害によるもの
まとまりのない言動、俳個、不眠、幻覚、興奮、大声を上げるなどです。

◎妄想、幻覚の影響によるもの
妄想にもとづく敵意、攻撃、興奮、おびえ。警察へ訴えたり、保護を求めたりします。

◎情動障害、人格障害などによるもの
攻撃的乱暴行為、ひねくれ行為、いやがらせ、反発、拒絶的、弄便、食糞などの不潔行為、自殺企図、自傷行為、うそをつく、心気的、好訴的で同じ話を何回も繰り返す、拒食、過食、異食、性的異常行為(露出、性器いじり、卑狼な言動)、衣類を脱いで裸になってしまう、やたらに物を集めてくる、衣類やふとんなどを裂いてしまう、物をこわす、燃やす、盗む、他人の寝室に入ってくる、覗く、などが観察されます。

以上のようにみてくると、認知症の異常行動が単に認知症によるだけでなく、背景が多彩であ
ることが理解できると思います。ときによっては、認知症よりも精神症状が前面に出てくるこ
とがあります。認知症見当識の障害は、認知症の徴候と考えてさしつかえありませんが、妄想
や幻覚、抑うつ気分、いらいら、不安、興味の喪失、意欲の低下、食欲低下、無口などは普通、分裂病、操うつ病神経症などの症状と考えます。認知症の程度が軽くて、こういう精神症状が前面に出ている場合には、それによって記憶障害などの認知症症状が覆われ、認知症が見逃されることがあります。
老年認知症や初老期認知症の場合には、認知症よりもこういう精神症状ではじまることがあります。経過をしっかりみることと、精神症状が認知症を覆っていないかどうか注意することが必
要です.