攻撃的行為

攻撃的になるには、なんらかの原因があります。たとえば、介護者がお年寄りの自尊心を傷つけている場合や、話や考え方に行き違いがある場合などです。そのほか、体調が悪いとき、不満や怒り、不安や恐怖を感じたとき、お年寄りの記憶は過去のつらかった時代に戻り、そのときの口惜しかったことに固執して攻撃的になるようです。個々のお年寄りの状況によって、対応の方法は多少異なりますが、攻撃的になるそのエネルギーを他の方向に向けるように援助するとよいでしょう。

 

 

六五歳のF婦人は、土産物屋の女主人として働いていました。六○歳ころから、物忘れがはじまり、お金の計算ができなくなってきました。家族はF婦人に店に出ないで奥で過ごすようにと、知り合いの人につき添ってもらい、店に出さないようにしました。
F婦人は人が変わったように乱暴になって、つき添っている人や家族にあたり散らしました。家族は困って、とりあえず、開園したばかりの有料老人ホームに入れました。
一週間後に攻撃的なためお世話できないから、至急引き取ってほしいと、連絡がありました。家族は困り果てて、相談に来ました。相談所から、経験の長いある有料老人ホ-ムにF婦人の経過を話して紹介しました。女性の園長は「自信ないわ」といっていましたが、引き取ってくれました。園長は日中の大半をF婦人と行動をともにしました。

野菜の皮むき、掃除、お花を生ける、買い物などです。どれも支持的にかかわれば、F婦人にできることばかりでした。
F婦人は次第に落ち着きをとりもどし、一カ月を過ぎたころからは、すっかり穏やかなF婦人に一戻りました。
認知症高齢者は、「私はこうしたいのよ」と自分の意思表示ができません。一方、家族は困った行動を、なんとかやめてもらおうと必死になります。先の例も、F婦人の役割を全部取り上げてしまったことが、F婦人を攻撃的にさせました。個々の高齢者が攻撃的になっている原因をさぐって、取り除く、あるいは改善することが先決です。原因が思い当たらないときは、医師に相談します。薬による治療で改善されることもあります。

認知症の人への対応と介護のポイント|症状を悪化させないために