言語障害、行為障害、認知障害

言語障害
言語障害についてはくわしい報告があります。それによると第1期から喚語障害、無意味な自発語が多くなり、失名詞、錯語がみられ、さらに言語の理解も障害されます。これらの障害のタイプは感覚失語またはウェルニッケ失語によく似ています。また言語の社会的、実際的側面が障害され、人と会話することができなくなり、聞き手のほうも患者の言葉が理解できなくなります。
読字では、音読はできるが、字の意味がわからなくなり、書字は自発語の障害と一致して障害を受けます。

 

◎行為障害
行為障害と認知障害は第Ⅱ期の特徴的症状ですが、両者の区別は判然としません。行為障害がおこるのは、物体自体を視覚的、触覚的に理解できなかったり、指示した言語の理解が困難であるためと考えられることがあります。それらは次のような障害によって観察されます。

第Ⅱ期のかなり早い時期から、調理、食事、洗濯、掃除、入浴、洗面、着脱衣といった長年にわたって習得されてきた行動ができなくなります。記憶障害は著明であるものの、言語的生活は十分可能で、感情反応にも異常がみられず、人格もよく保たれているようにみえる患者が、家では料理や買い物がまったくできないということもあります。アルツハイマー病では着脱衣がとくに困難です。これらは、観念失行、観念運動失行、構成失行と呼ばれています。


認知障害
この病気では、視覚失認、視空間失認、相貌失認、同時失認などが認められます。物品の認知ができず、空間に配置された物体の認知がある一カ所に固着して正しく扱えない、絵や写真を見せても全体の内容がわからない、空間的な場所や地理的な方向がわからない、時計の認知ができない、左右、手指認知ができない、よく知っている人の顔がわからないなどが頻繁に出てくる症状です。

とくに地理的な失見当識は記憶障害との関連でみるよりは、むしろ視空間失認としてとらえる必要があります。アルツハイマー病の進行過程からみると、この視空間失認は比較的早い時期であるために家族は驚くことが多いことになります。しかし、認知障害は一般に第Ⅱ期の後半にみられることが多く、先に述べた行為障害よりは遅れて現れます。

 

 

 

認知症の対応と対策の現状

知的機能低下の起こる原因は、器質性要因と非器質性要因に大別することができます。認知症患者の知能低下の主な原因は脳ですから、これを器質性要因といいます。まず非器質性要因については、廃用性要因、心因性要因、症候性要因をあげることができます。
これらの原因による知能低下は、器質的な原因によるものに比べて程度が軽く、普通の高齢者の間にも程度の差はあれ、広くみられるものですが、認知症患者の間では日常生活の不活発化、不適切な介助によるストレス状況、身体疾患の放置・悪化傾向、脳の情報処理機能の
低下などのために、この種の知能低下がさらに拡大することがあります。


このタイプの知能低下は、日常の適切なケアや全身機能の調整によってかなり改善することが可能です。したがって、認知症患者の行動異常や精神症状を改善する上で、薬物治療とならんで、日常のケアのあり方もきわめて重要であることは理解できると思います。
認知症患者の脳の病変としては、ニューロンシナプスの破壊・消滅がもっぱら想定される傾向にありますが、この種の病変を薬物治療によって回復させることは、今後どんなに薬物開発が進んでもかなりむずかしいと思います。


しかし、認知症の示すさまざまな精神症状に対する現在の主な治療手段は、各種の脳代謝改善薬脳循環改善薬向精神薬です。これらの治療薬は、認知症患者の精神症状に対してある
程度まで有効です。具体的にいえば、薬物治療によって改善させることのできる症状は認知症の随伴症状にほぼ限定され、中核症状に何らかの効果を示すことの確認された薬物は現在のところありませんb新しい薬物の進歩や治療上の工夫によって、どの程度まで治療効果を上
げることができるかが今後の課題といえます。