日常生活での介護の不安

自宅介護では、毎日繰り返される細々とした家事の合間にお年寄りに対する気配りをしなければなりません。
・異常行動への対応 老人の変化や異常行動に対してどう対応すればよいかと悩み、果たして自分のこのやり方でよいのだろうかと迷います。

 

この状態がいつまで続くのか
次にはいったい何が起きるだろうか、どんな異常行動と出合うのだろうかと心配です。異常行動は後で考えてみると毎日二四時間起きているのではないかもしれません。しかし介護者にとっては、「今、何事も起きていないだろうか」と、お年寄りの様子をうかがうときの心理的負担がとても大きいものです。

・介護者のストレス
介護者は今日一日何事もなく、たとえば認知症性高齢者はけがもなく、室内が汚物で汚れることもなく近所や親戚とトラブルもなく、おだやかに過ぎることを願います。日中、認知症性高齢者と一一人だけになる介護者はなかなか気分の転換ができずにストレスが高じます。




やさしく語りかけ接する

高齢者は一般にうっ状態やうつ病を発病しやすく、喪失体験がきっかけとなって認知症が発症する場合が決してまれではない。きっかけとなる喪失体験としては、配偶者との死別、同居していた孫の結婚、かわいがっていたペットの死亡などが代表的なものである。

 

また、認知症老人においては、知的機能障害はあるものの感情面での交流は保持されている場合が多く、したがって、介護者や近所の人たちの気持ちは敏感に認知症老人の心にも伝わっていくものである。これらのことから、介護者は認知症老人の行動面における失敗を叱責してはならないのが原則である。認知症老人が攻撃的な言動や精神的興奮をきたす場合には、多くの場合何らかの原因がある。介護者や家族の言動をよく観察していると、認知症老人の自尊心を傷つけている場合が比較的多く見受けられる。


認知症老人は自分のしたことは忘れてしまっても、介護者に厳しく叱責された屈辱感だけは十分に自覚され、しかも後まで残るからである。激しい叱責の結果、症状が悪くなることはあっても、決してよくなることはない。逆に上手に、すなわちやさしくしかも明るく、認知症老人を力づけるように対応することで、症状をよくする場合がしばしばある。語りかけとスキンシップがきわめて効果的であることは最も重要な点である。

 

そのほか、不満や怒り、恐怖、過去のつらかった時の思い出に固執している時などにも、攻撃的な言動を起こしやすい。また、認知症老人は自分の意思を適切に表現できないもどかしさがあって、相手の話や行動に十分に合わせられない。以上のことを考えた場合には、認知症老人とあたたかく接することが、最も大切であることがわかる。


また、他人に対しては比較的機嫌よく対応するにもかかわらず、最も熱心に介護してくれる肉親や介護者に攻撃的言動を向ける場合が多い。もし認知症老人が介護している人のことを非常に悪くいう場合には、その攻撃対象になっている人こそが身近で最もよく世話をしている人だと考えて間違いない。だから認知症老人が悪くいう介護者を、第三者が非難したりすることは慎むくきである。

日々の生活では、伝えたいことはできるだけ簡単に、しかも大きな声ではっきりと話しかけることが大切である。知的機能ばかりでなく聴力も落ちていることが多いからである。また、認知症老人は時に、あるいはしばしば実行困難なことを要求することがある。たとえば、すでに解約して使ってしまった銀行預金について、まだ預金があると思いこんで、お金をおろしてき
てくれなどということがある。これに対して、すでに解約してしまったから、と言下に拒否する態度は好ましくない。まずは認知症老人の発言を受け入れて「希の(はい、わかりました)」と返事をしておいて、その後で、時間をかけて介護者の考えに向けていくことが好ましい。その場合、弓三(しかし)」といって時間をかけて否定する方法と、時間をかけて忘れてくれるま
で待つかはケースによる。


次に認知症老人への接し方を簡単にまとめておくと。
1 大原則l人格の尊重.
2.すべての能力が衰えているわけではないことを理解しておく。
3.叱らないこと。
4.環境を急に変えないこと。
5.情報は簡単に、しかも大きな声で伝える。