認知症の対応と対策の現状

知的機能低下の起こる原因は、器質性要因と非器質性要因に大別することができます。認知症患者の知能低下の主な原因は脳ですから、これを器質性要因といいます。まず非器質性要因については、廃用性要因、心因性要因、症候性要因をあげることができます。
これらの原因による知能低下は、器質的な原因によるものに比べて程度が軽く、普通の高齢者の間にも程度の差はあれ、広くみられるものですが、認知症患者の間では日常生活の不活発化、不適切な介助によるストレス状況、身体疾患の放置・悪化傾向、脳の情報処理機能の
低下などのために、この種の知能低下がさらに拡大することがあります。


このタイプの知能低下は、日常の適切なケアや全身機能の調整によってかなり改善することが可能です。したがって、認知症患者の行動異常や精神症状を改善する上で、薬物治療とならんで、日常のケアのあり方もきわめて重要であることは理解できると思います。
認知症患者の脳の病変としては、ニューロンシナプスの破壊・消滅がもっぱら想定される傾向にありますが、この種の病変を薬物治療によって回復させることは、今後どんなに薬物開発が進んでもかなりむずかしいと思います。


しかし、認知症の示すさまざまな精神症状に対する現在の主な治療手段は、各種の脳代謝改善薬脳循環改善薬向精神薬です。これらの治療薬は、認知症患者の精神症状に対してある
程度まで有効です。具体的にいえば、薬物治療によって改善させることのできる症状は認知症の随伴症状にほぼ限定され、中核症状に何らかの効果を示すことの確認された薬物は現在のところありませんb新しい薬物の進歩や治療上の工夫によって、どの程度まで治療効果を上
げることができるかが今後の課題といえます。

第Ⅱ期

記憶障害や意欲障害がいっそう著しくなり、さらにあらゆる精神機能の障害が加わり、アルツハイマー病の典型像が示される時期です。
コルサコフ型記憶障害は高度となり、学習機能はほとんど失われるため、経験・体験したことは短時間のうちに忘れてしまいます。病気の進行とともに、経験の保持が瞬間的にしかできなくなり、瞬間人と呼ばれています。食後すぐに、まだ食事をしていないといって騒ぐなど、高度の記銘障害による異常行動が目につきます。

また一般的にいえば、言語性記憶や時間の記憶、場所の記憶の障害が強く、視覚性記憶の障害は軽度です。たとえば、担当の医師の顔はよく覚えているのに、名前は覚えることができない、ということはよくあることです。感覚の違いによって記憶障害の程度に差がみられるのですが、経過の進行とともにその差はなくなってきます。
遠い過去の記憶も障害を受けるようになってきますが、近時記憶(記銘)の障害に比べれば、程度は軽いのが通常です。つまり過去の事実は断片的に残っていることが多いといえます。近時記憶障害と遠時記憶障害の程度に不一致があるためなのか、あるいは別な理由によるかはわかりませんが、過去と現在が混在してしまう状態が出てきます。自分が昔の世界に生きており、まだ両親が生きているとか、会社には今でも出勤しているとか、まだ結婚していないなどと述べ、家族が困惑することがよくみられます。患者には時間経過の体験がないかのようにみえます。

意欲や自発性の障害も著明になり、ぼう然として、何もやる気もなく、無欲状態で日々を過ごしているようになります。まわりへの関心も興味も失われて、表情は無表情となり、すべてに活気がなくなってきます。
以上は第1期に引き続きみられる症状ですが、新たに種々の精神機能障害が出てきます。
とくに中心となるのは失語、失行、失認といわれている症候群です。