◎妄想

ものとられ妄想や嫉妬妄想、捨てられ妄想などが認知症高齢者を苦しめます。ことに、ものとられ妄想は出現しやすく、介護者を不愉快にさせます。預金通帳や財布、めがね、アクセサリーなど身のまわりのものを、しまい忘れたり置き忘れたりします。そして自分に物忘れがあるという自覚がないために、人に盗られたと思います。ことに、直接介護している身近な人に疑いをかけます。「盗らない」といってもお年寄りは納得しません。現実に品物が見当たらないからです。

 

否定したり説得しようとすると、かえって不信の念を強めます。品物がないという事実を受け止めて、一緒に探すことが第一です。お年寄りの行動をよく観察していると、その人に よってものを隠す場所が決まっています。たとえば、客布団の間とか、風呂敷包みの中などです。
一緒に探すときに注意することl・介護者が探し出して、「ここにあるじゃないの」などというと、「あんたが持っていって、そっと返したんでしょう」などというお年寄りがいます。お年寄りの介護をしていて、お年寄りからストレスを受けることは、なるべく少なくしたいものです。そのためには、お年寄りの手で探しだすように、誘導します。たとえば、「箪笥の引き出しをみましたか」「押し入れをみましたか」と声をかけると、お年寄りは必死になって探します。自分の手で探し出したときは、介護者のせいにすることは、少ないようです。大切なものが見つかった喜びで、ときには「ありがとう」などという言葉が返ってくることもあります。

介護者の心得

生きていく上での基本的な欲求を満たす
認知症のお年寄りは、習慣として行ってきた日常生活が次第にできなくなってきます。一見できているようでも、不完全なことが多くなります。食事、排池、清潔などすべてがお年寄りに適した方法で、常に満たされるようにしていくことです。


◎予測できる危険から守る
認知症のお年寄りが生活していくには、現代はあまりにも危険が多過ぎます。お年寄りが保護的な環境の中で安全に生活ができるように配慮します。また、予測できる事故から守るための対策をたてて実行することが大切です。


◎孤独にさせない
認知症のお年寄りを長いこと-人きりにさせておくことは好ましくありません。孤独にしておくと、問題行動を起こし事故につながることがあります。また、刺激のない生活は認知症の進行を早めるといわれています。家族が一緒にいて刺激を与えられない場合は、日中だけお世話をするデイサーピスなどに参加してグループ活動をすることをおすすめします。日常生活の中で、お年寄りに疎外感を与えないような配慮が必要です。


自尊心を傷つけない
感情が保たれています。お年寄りの行動を馬鹿にしたり噸笑したりすることは避けて、好ましい感情の交流をはかるようにします。子供扱いは好ましくありません。年長者として対応しましょう。


◎役割を与える
認知症のお年寄りはなにもできない」と決めつけないことです。習慣として行っていたことの中には、できることもあります。完全にできないときはそっと補って、お年寄りがご自分で行ったようにします。わずかなこと、生産的でないことでも役割があることは、たとえその場限りでも、「私は役にたっている」と感じ、自尊心を高めることにつながります。

 

◎寝たきりにさせない
お年寄りが寝たきりになると、認知症状態の悪化につながります。また、手足の関節の拘縮や床擦れ、肺炎などを引き起こしやす/、なります。
お年寄りが寝たきりになるきっかけとしては、骨折や脳卒中、風邪やその他の身体疾患があげられます。また、認知症状態のために意欲が低下して、介護者が起こさなければ終日床についているお年寄りもいます。お年寄りを寝たきりにさせないためには、寝たきりになる原因をつくらないことが、第一です。
骨折や身体疾患などは避けがたいものですが、そのような状況に出合った場合は、医師の指示を受けて早期離床やリハビリテーションを行います。以前のように自由に歩行できなくなったときは、寝たきりにさせないで、日中は寝具を片付けて、「いざり移動」とします。
環境が許せば、車椅子の生活も。

 

◎お年寄りに合わせる
認知症の程度は、その日によって、また時間によって変わります。したがって、認知症のお年寄りはいつも何も理解できない、という思い込みは危険です。また、認知症のお年寄りは話や行動の中で、昔のことと現在のこととを混同することがあります。
認知症のお年寄りの介護は、そのときどきの変化に応じて、柔軟で臨機応変な対応が必要です。認知症のお年寄りと一口にいっても、認知症の程度、合併する身体疾患や障害の有無、生活歴、習慣や癖、性格などで介護の方法は異なります。一人ひとりのお年寄りに合わせて介護するようにしましょう。