不安・焦燥感


認知症高齢者は寸前の出来事を忘れます。今後の見通しもつけられません。また、時間も季節も自分のいる場所もはっきりとしなくなります。さらに周囲との関係もわからなくなってきます。そうした状況の中にいる認知症高齢者は、些細なことで不安や焦燥感におそわれます。ことに、認知症状態の軽度から中程度のころに、不安や焦燥感が強くなる傾向があります。そのためにひどく混乱したり、落ち着かなくなったり、不機嫌になったりします。

よくみられることですが、きまって夕方になると落ち着きがなくなり、不安や焦燥感が現れるお年寄りがいます。「夕暮れ症候群」などといっておりますが、認知症高齢者は、一日中よく理解できない状況の中で不安や緊張の時を過ごしています。そのため夕方には疲れてくるのであろうといわれています。
一方、介護者も、夕食の準備などできぜわしくなり、お年寄りへの配慮が十分できなくなります。さらに、夕闇がせまり学校や外から孫たちが一戻ってきたりして、家のなかの雰囲気が変わります。認知症高齢者は、自分の家にいるのに、違うところにいるように思ってしまいます。「お世話になりました」とか「仕事がおわりましたので帰らせていただきます」「子供が帰ってくるから、私もそろそろ帰るわ」といって家から出て行こうとします。
また「お米がない、どうしよう」と困惑しきったり、裸になったり、「おつかさんとおとっさんがど
っかへ行ってしまった」と泣き出したりします。夕暮れどきは、認知症高齢者が最も不安になる時刻です。
夕暮れどきの不安や焦燥感は普通一’二時間でおさまります。夕食がすむと、ほとんどのお年寄りが落ち着きます。認知症高齢者の不安や焦燥感を軽くするためには、夕食前のひとときを、お年寄りと一緒に過ごせるような配慮が必要になってきます。

そのためには、夕食の支度を昼間しておいて、お年寄りが不安になる時間は、一緒に過ごすようにします。もちろん介護者一人で頑張らないで、家族の協力を得るようにします。

◎妄想

ものとられ妄想や嫉妬妄想、捨てられ妄想などが認知症高齢者を苦しめます。ことに、ものとられ妄想は出現しやすく、介護者を不愉快にさせます。預金通帳や財布、めがね、アクセサリーなど身のまわりのものを、しまい忘れたり置き忘れたりします。そして自分に物忘れがあるという自覚がないために、人に盗られたと思います。ことに、直接介護している身近な人に疑いをかけます。「盗らない」といってもお年寄りは納得しません。現実に品物が見当たらないからです。

 

否定したり説得しようとすると、かえって不信の念を強めます。品物がないという事実を受け止めて、一緒に探すことが第一です。お年寄りの行動をよく観察していると、その人に よってものを隠す場所が決まっています。たとえば、客布団の間とか、風呂敷包みの中などです。
一緒に探すときに注意することl・介護者が探し出して、「ここにあるじゃないの」などというと、「あんたが持っていって、そっと返したんでしょう」などというお年寄りがいます。お年寄りの介護をしていて、お年寄りからストレスを受けることは、なるべく少なくしたいものです。そのためには、お年寄りの手で探しだすように、誘導します。たとえば、「箪笥の引き出しをみましたか」「押し入れをみましたか」と声をかけると、お年寄りは必死になって探します。自分の手で探し出したときは、介護者のせいにすることは、少ないようです。大切なものが見つかった喜びで、ときには「ありがとう」などという言葉が返ってくることもあります。